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図2-1
コントロールシステム能力低下
少量のブドウ糖が入った場合では
糖を処理することが可能なので血
糖値は正常値を維持可能。 |
図2-2
コントロールシステム能力低下
多量のブドウ糖が入ってきた場合糖を処理しきれなくなり、血糖値は異常値まで上昇してしまう。 |
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2.糖尿病における血糖コントロールの考え方
血糖値を上昇させたくなければ、上記の説明から明らかに
1)入ってくるブドウ糖の量を血糖コントロールシステムの能力に合わせて制限するか(食事療法)
2)血糖コントロールシステムの処理能力そのものをあげて血糖値をコントロールする(薬物療法)
の2つの方法が考えられます。
1) 糖質制限とは
素直に考えれば、処理能力に合わせて入ってくるブドウ糖の量を減らす方法が確実であることはあきらかです。これを実際の生活に当てはめると食事においてブドウ糖の摂取量をコントロールシステムに見合った量に制限するということになります。私たちはブドウ糖をそのままの形で摂取することは少なく、たいていブドウ糖が長く鎖状につながったデンプンの形で摂取しています。デンプンは穀物の栄養の主成分です。ご飯やパンはデンプンを摂取するための食物といっても言い過ぎではありません。そのため、血糖を上昇させないための食事はデンプンを多く含むご飯やパン、麺類などの摂取を制限する糖質制限食(ブドウ糖やデンプンを糖質といいます)が一番効果的なのです。
この状態が上記の図2-1の状態です。患者さんの血糖コントロール能力の範囲のブドウ糖摂取なら血糖値は正常範囲にとどまります。
糖質をカットしたときの血糖値の変動は下の図3の様にイメージすると理解しやすいでしょう。
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図3
糖尿病における糖質制限
糖質を制限すると血液中に流入するブドウ糖が減少し血糖値は改善する。糖の量がコントロール範囲まで減少すると血糖値は正常化する。 |
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2) 糖尿病の薬物治療 |
糖尿病治療薬はインスリン分泌を刺激したり、体から出ているインスリンの効果を増強したりすることによって血糖コントロール能力を高めます。その結果ブドウ糖摂取量がコントロール範囲内になれば血糖値は正常化します。(図4-1)
注意しなければならないのは、薬剤による血糖コントロール能力の増加には限界があるため過剰な量のブドウ糖が摂取された場合血糖コントロールの能力の増加が不十分となり、期待したほど血糖値の低下が見られないことが多いことです。(図4-2)
そのため、薬物療法を行わざるを得ない場合でも十分な糖質制限を行って余剰なブドウ糖の血液への流入を減らすことが大切です。
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図4-1
糖尿病における薬物治療
効果十分の場合
糖尿病の治療薬は血糖コントロール能力を高めることによって血糖値を正常化する。 |
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図4-2
糖尿病における薬物治療
効果不十分の場合
糖尿病の治療薬が充分に血糖コントロール能力を高めることが出来ないと血糖値は正常化出来ない。 |
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3) 糖質制限治療の実際
糖質制限治療の問題点は、どこまで糖質量の制限を行って良いかまだ科学的にはっきりしたエビデンスがないことです。そのため、糖質制限の是非に関しては日本の医学界ではいまだに議論となっています。しかしながら、ブドウ糖は主として体を動かすエネルギー源として使われるので、糖質摂取を0にすると言う極端な糖質制限でなく、一日で使うエネルギー程度の糖質量までを限度とした糖質制限であれば論理的にも問題ないと考えられ、実際に無理なく行えます。
3. 豊頃医院での糖尿病治療
豊頃医院では患者さんの生活実態に合わせた糖尿病の糖質制限治療を行っています。当院ホームページで公開しているように治療目標(HbA1c6.5%未満:JDS値)に達している患者さんが90%以上となっており、糖質制限を基本とした糖尿病の治療法は有効であることが示されています。
具体的な豊頃医院での糖尿病の診療に関して簡単に解説します。
1)糖尿病の診断
検診などで糖尿病を疑った場合は糖尿病であるかどうか確認する必要があります。日本糖尿病学会が決めている診断基準は
@空腹 時血糖126(mg/dl)以上又は随時血糖200以上、
AHbA1c6.5%(NGSP)(6.1%:JDS)以上、
B75gブドウ糖負荷試験2時間値血糖200以上 です。
一般の方には少々わかりにくいと思います。簡単に説明しますと、血液中に入ったブドウ糖の濃度を適切な値に維持できなくなり、血糖値が上昇してしまう状態が糖尿病です。診断基準の血糖値になった場合糖尿病と判断されるということです。75グラムのブドウ糖を飲み30分ごとに血糖値と血液中のインスリン濃度を測定する75gブドウ糖負荷試験が、糖尿病の診断とその患者さんの血糖コントロールの状態を見るのに最適です。豊頃医院では診断時に必ず行うようにしています。
2)食事療法
糖質制限に基づく食事療法は血糖コントロールが目的なので、患者さんの状態に合わせた糖質の摂取量を決めることを主眼にします。具体的には現在の食事における糖質の量が適切かどうかを判定します。少量のご飯(150g)摂取による血糖・インスリン分泌の変化を見るご飯テストは参考になります(図5)。150gのご飯だけ食べていただいて判定します。食後血糖が200mg/dlを超えないご飯量を適切量とします。正常人は150mg/dlを超えることはありませんので、血糖コントロールの最終目標は150mg/dl以下をめざします。
糖尿病の糖質制限食は糖質の量が問題で他の栄養素は必要量が得られていれば気にしなくても問題ありません。簡単に言うと主食(ご飯、パン、麺、芋やカボチャなど)の量に注意するだけで、いわゆる”おかず”はそのままで良いと言うことです。気をつけていただきたいのは、おかずに”芋の煮っ転がし”のような糖質の多い物を食べた場合”おかず”ではなく主食と同じ扱いをすると言うことです。
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図5 ご飯テスト(150g)における血糖値の変化
ご飯150gを食べた後の血糖値の変化を示します。正常な人の血糖値は食後150mg/dlを超えないことがわかります。軽症糖尿病患者(HbA1c6.0未満)では食後30分で150mg/dlを超えてしまいます。よりコントロールの悪い患者(HbA1c6.0以上)では食後60分で200mg/dlを大きく超えてしまいます。 |
3) 自己血糖測定
可能な患者さんは自己血糖測定を行います。自己血糖を測ることで、日常の食事でどのくらい血糖値が上昇するかを確認してもらいます。測定した血糖値と食べた糖質の量から、どの程度の糖質量が血糖値を上げないのかを確認していただきます。自分で血糖値を測って納得すると食事療法を維持する気持ちを強めることにつながります。
4) 薬物療法
糖質制限による食事療法のみで容易に血糖コントロールが出来る患者さんは、比較的軽症すなわち血糖コントロールする能力がそれなりに残っている患者さんです。血糖コントロール能力を精密に測定することは臨床の場では難しく、当院では糖質制限を行って血糖値の変化をしらべます。それでも血糖コントロールが不十分な場合は薬物療法を加えます。基本的な考え方は上記2)で説明したとおりです。
その際インスリン分泌やインスリンの効きの善し悪し(インスリン抵抗性といいます。)を血液検査(空腹時インスリン値、空腹時Cペプチド値)を基に推定し、インスリン分泌低下の患者さんにはインスリン分泌刺激薬を、インスリンの効きが落ちている患者さんにはインスリン抵抗性改善薬を処方します。必要ならインスリンの注射も行いますが、ほとんどの患者さんではインスリン注射をしなくても血糖コントロールが可能となっています。 |
糖尿病の治療の参考になれば幸いです。
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